前回は、第1回目として8/5
「FLP事業体の概要(LLC・信託との違い、設定要件)」をお伝えしました。
今回は1回空けまして、FLP事業体が関連する訴訟の事例をいくつかご紹介します。
■1■ FLP事業体の利用を有名にした判例
FLP事業体を利用した具体的な事例として、納税者が死亡時に有するパートナーシップ持分に関し、遺産を生涯控除額未満になる程度の割引価値を要求することにより、完全に遺産税の納税義務を排除することが可能となった判例があります。
1.Perracchiov. Commissioner
(86 T.C.M. (CCH) 412, 419 (2003))
<事件背景>
Perracchio事件は、2002年に米国税務裁判所で審理された、遺産税評価に関する重要なケースです。
本件では、被相続人(Perracchio氏)が有限責任組合(Limited Partnership)の持分を保有しており、その評価額が問題となりました。
具体的には、遺産税の計算において、これらの持分に適用される評価減(ディスカウント)の適切な割合が争点となりました。
<争点>
主な争点は以下の2点です。
1. 少数株主割引(Minority Interest Discount)の適用被相続人が保有していた持分が有限責任組合の
少数持分であったため、その影響をどの程度評価に反映させるべきか。
2. 市場性欠如割引(Lack of Marketability Discount)の適用当該持分が市場で容易に売却できない性質を持つことから、
その流動性の欠如を評価にどの程度反映させるべきか。
・納税者の主張
納税者側は、これらの割引を適用することで、持分の評価額を大幅に減少させるべきであると主張しました。具体的には、少数株主割引と市場性欠如割引を組み合わせて適用し、全体として大きな評価減を求めました。
・IRS(内国歳入庁)の主張
一方、IRSはこれらの割引の適用を限定的に解釈し、納税者が主張するほどの大幅な評価減は正当化されないと反論しました。特に、組合の構造や運営状況を踏まえ、割引率を低く抑えるべきであると主張しました。
<裁判所の判断>
税務裁判所は、双方の主張と証拠を精査した上で、以下のような判断を下しました。
1. 少数株主割引: 裁判所は、被相続人の持分が実際に経営に対する影響力が限定的であることを認め、少数株主割引の適用を許可しました。
しかし、その割引率については、納税者が主張するほど高くは認めず、合理的な範囲内で設定しました。
2. 市場性欠如割引: 裁判所は、当該持分が市場で容易に売却できないことを認め、市場性欠如割引の適用を許可しました。
しかし、こちらも納税者が求めた割引率よりも低い割合での適用としました。
<結論>
最終的に、裁判所は納税者とIRSの双方の主張を部分的に受け入れ、評価減の適用においてバランスを取った判断を下しました。
このケースは、遺産税における非上場持分の評価に関する指針を示す重要な判例として位置づけられています。特に、少数株主割引と市場性欠如割引の適用に関する基準や、その割引率の決定方法について具体的な判断を示した点で、後続の類似案件に大きな影響を与えました。
<影響と意義>
Perracchio v. Commissioner事件は、産税や贈与税における資産評価の分野で重要な判例となりました。
この判例により、有限責任組合や非上場企業の持分評価における割引の適用方法や、その適切な割合についての基準が明確化されました。
また、このケースは、資産計画や相続対策を行う際に、どのように組織構造を設計し、資産を配置すべきかについての指針を提供しています。【Leagle】。
■2■.その他の事例から
FLPを利用した判例を扱っているものとして、以下の法務レビュー記事があります
1. Estate of Stone v. Commissioner:納税者勝訴
– このケースでは、Stone家の5つのFLPが死の数か月前に設立されました。
Stone家は遺産税申告において43%の少数持分割引と市場性割引を主張しました。
判決では、FLPが正当に運営され、適切な形式的要件を満たしている場合、2036条に基づ遺産税の課税を回避できる可能性があることが示されました
【MercerCapital】。
2. Estate of Strangi v. Commissioner (Strangi III):連邦当局勝訴
– このケースでは、控訴裁判所でIRSが勝訴しました。
これは、移転者が移転された資産から引き続き利益を享受し、FLPが事業目的を欠いているとされたためです。
FLPが適切に運営されているかどうか、そして資産の移転が「本物の販売」であったかどうかが争点となりました。
結果的に、FLPが正当な事業機会として機能していることが重要であるとされました【FindLaw】。
3. Estate of Thompson v. Commissioner:連邦当局勝訴
Thompsonの事例では、納税者がFLPに移転した資産から引き続き利益を得ていることが確認され、家族の善意の売買の主張を退け、「価値のリサイクル」として移転を評価しました。
その結果、2036条に基づき遺産税の課税対象となると判断されました。
このケースは、FLPの運用が適切でなかった場合に、IRSがどのように資産を課税対象に含めるかを示しています【MercerCapital2】。
■3■.まとめ
これらの判例は、FLPの使用に関してIRSがどのように評価割引や内国歳入法典2036条に基づく
課税を取り扱うかについてのガイドラインを提供しています。
これにより、FLPの設計と運営が適切に行われていることの重要性が強調されています。
また、重要な焦点として以下の3点があげられます。
1. 納税者がFLPの正式性(事業目的)を尊重しているかどうか。
2.個人的な使用のための資産が含まれているかどうか。
3. FLP以前の生活水準を維持するために十分な資産がFLPの外に維持されているかどうか。
FLP事業体は、家族間での資産移転と遺産税の軽減を図るための有効な手段となり得ます。
しかし、法的な複雑性や税務当局の監視を考慮し、専門家の助言を得ながら慎重に設計・運用することが求められます。
★ ウォルトン家(Walmart創業者家族)の遺産税対策 ★★
ウォルトン家とは、
ウォールマートの創業者であるサム・ウォルトンの家族のことです。
ファミリーは遺産税を回避するためにいくつかの方法を採用しています。
たとえば「GRAT(Grantor Retained Annuity Trust)」と呼ばれる信託の手法で、莫大な資産を税金をほとんど支払わずに次世代に移転しました。
これは信託期間中に一定額の年金を受け取り、信託が終了したときに残りの資産は受益者に移転される仕組みですが、その資産が設定期間中に成長したとしても、信託設定時の評価額に基づいて税金が計算されるので、受益者が相続税をほとんど支払わずに大きな資産を受け取れるため、非常に効果的な節税方法となっているのです。
ほかにも、「CRT(Charitable Remainder Trust)」という手法を利用し、資産を慈善信託に寄付しました。
その資産からの収入を一定期間受け取った後、残りの資産を慈善団体に寄付する手法です。
これにより、寄付時に所得税控除を受けるとともに、遺産税も回避することができます。ウォルトン家は、慈善団体への寄付を通じて、税金の軽減を図る手法を活用したんですね。
しかし、残念ながら日本にはない租税回避の手法なのです^^ お隣の芝生。。
〒100-0005
東京都千代田区丸の内1-11-1
パシフィックセンチュリープレイス13階
TEL : 03-6775-3660